六経病証と三陰三陽病の違い
六経病証と三陰三陽病は、どちらも東洋医学で外感病(風邪など外からの病邪による病気)を理解するための理論です。ただし、その考え方には違いがあります。
- 六経病証:どの経脈に外邪が侵入したかを示す考え方。『素問・熱論篇』をもとに、臓腑や経絡の病理変化を説明する。
- 三陰三陽病:病気が進行するステージを示す考え方。張仲景の『傷寒論』で整理され、邪気が体表から体内へ進む過程を表す。
つまり、六経病証は「経絡」に注目し、三陰三陽病は「病気の進行段階」に注目しています。
1. 六経病証(『素問・熱論篇』に基づく)
六経病証は、『素問・熱論篇』を基に、後漢時代の張機(仲景、A.D.219年頃)が『傷寒雑病論』の中で、傷寒すなわち外感病の証候と特徴を体系化したものである。
六経病証は陰陽を大きな枠組み(綱)として、外感病を六つの証型に分類している。これは臓腑や経絡の病理変化の現れであり、鍼灸による外感性疾病の治療において臨床的な意義を持つ。
また湯液(漢方方剤)医学においては、外感性疾病の病期、すなわち病の進行に応じた病位や病勢の変化と結びつけられている。これには三陽病(太陽病・少陽病・陽明病)と、三陰病(太陰病・少陰病・厥陰病)がある。
(1) 六経病(『素問・熱論篇』より)
① 太陽経病
陽の最も盛んな太陽経に、まず外邪(寒邪)が侵入する。頭頂部の痛み、腰背部の強ばりを起こす。
② 陽明経病
次に陽明経に外邪が侵入する。陽明経は肌肉を主り、鼻や目に関係する。そのため、目の痛み、鼻の乾燥、安眠できないなどの症状を起こす。
③ 少陽経病
さらに外邪が少陽経に侵入する。少陽経は胆に属し、胸脇を巡り耳をつなぐ。そのため胸脇痛や耳聾を起こす。
(※三陽経絡が病を受けても、まだ臓に侵入しない段階では発汗により治癒できる。)
④ 太陰経病
病気が進行すると太陰経が病邪を受ける。太陰経は胃中に分布し、咽喉をつなぐ。そのため腹部の脹満、咽喉の乾燥を訴える。
⑤ 少陰経病
さらに深く病邪が進むと少陰経が病を受ける。少陰経は腎を貫き、肺を絡い、舌根につながる。そのため口渇や舌乾を起こす。
⑥ 厥陰経病
最後に病邪は厥陰経に及ぶ。厥陰経は陰器を巡り、肝に関係する。そのため煩悶、陰嚢収縮などを起こす。
2. 三陰三陽病(『傷寒論』に基づく)
三陰三陽病は『傷寒論』に記載される、外感病の病期(病気のステージ)を示す。邪気が体表から体内へと進行する過程を、三陽病と三陰病に分類して説明する。
(1) 三陽病
① 太陽病
発病の初期。悪寒(または悪風)、発熱、頭痛、項強、脈浮などを特徴とする。
「太陽の病たる、浮脈、頭項強痛して悪寒す。」
② 少陽病
発病後4〜7日頃。口苦、咽乾、舌苔白、食欲不振、悪心、胸脇苦満、耳の症状。往来寒熱(悪寒と発熱が交互に現れる)を特徴とする。
「少陽の病たる、口苦く、咽乾き、目眩くなり。」
③ 陽明病
発病後8〜9日以降。高熱、全身の熱感、腹実満、便秘、舌苔黄など。陽病の極期。
「陽明の病たる、胃家実是なり。」
(2) 三陰病
④ 太陰病
陽明病期の後に起こる。体力低下、冷え、腹虚満、腹痛、下痢、悪心・嘔吐などの胃腸症状が主体。
「太陰の病たる、腹満して吐し、食下らず、自利益々甚だしく、時に自ら痛む。若しこれを下せば、必ず胸下結鞭す。」
⑤ 少陰病
さらに進行した段階。元気が衰え、臥床してうつらうつらする。脈は微細で触れにくい。
「少陰の病たる、脈微細、ただ寝んと欲するなり。」
⑥ 厥陰病
最終段階。上気して顔色は赤みを帯びるが、下半身は冷える。咽乾、胸中の熱感、飢餓感はあるが飲食できない。多くは死に至る。
「厥陰の病たる、気上がって心を撞き、心中痞熱し、飢えて食を欲せず。食すれば則ち吐し、これを下せば利止まず。」
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